恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

「けど、俺が皇族ではなく屋台のオヤジだったら、お前は嫁いできてくれなかっただろうな」

鳴鈴は想像してみた。飛龍が皇子でも武将でもなく、屋台で餅を焼いていたら。

「ぷっ」

こんなときだというのに、鳴鈴は吹き出してしまった。

「いいえ、殿下だけでは屋台は繁盛しません。大変そうですから、私が手伝ってあげます」

「ほう?」

「殿下は黙々と餅を焼くのです。私は呼びこみや接客をします。『美男が焼いた“美男餅”はいかが? 美容と健康に良く、出世運も付きますよ!』と」

それはそれで楽しそうだ。

庶民は働いて税を納めねばならず、衣食住は今の暮らしより、ずっと貧しくなるだろう。

けれど、飛龍が傍にいてくれたら。自分を傍に置きたいと言ってくれるなら、そんなに幸せなことはない。

「位を返上するときは教えてくださいね。ついていきますから」

飛龍は星稜王の位を、無責任に放り出すことはしないだろう。

でもいつか疲れ果てて、別の道を歩むと言うのなら、自分もついていくまで。支え合うのが夫婦のはずだから。

鳴鈴はにっこりと飛龍に笑顔を見せた。

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