恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
陸・雨の中で
無事に王府に帰り着いた鳴鈴は、連続して危ない目に遭ったことを忘れたかのように、明るく振舞っていた。
「これ、美味しいの。みんなで食べて」
いつも鳴鈴の身の周りの世話をしてくれる侍女たちに、皇都で買った干菓子や色とりどりの香袋を配る。
「まあ、私たちなんかに……ありがとうございます」
侍女たちは口々に礼を言い、頭を下げた。
「こちらこそ、いつもありがとう」
鳴鈴は笑顔で返し、侍女たちが集まる厨房から出ていった。
(ここは安全だもの、大丈夫よ)
鳴鈴はそう自分に言い聞かせていた。ふと不安になることもあるが、侍女たちの前ではそれを顔に出さないように気を付けている。
「鳴鈴」
部屋に帰る途中で、回廊の先から飛龍が現れた。その手には箱が乗っている。
「俺の執務室にあったんだが、誰が置いていったか知っているか」
「はい?」
鳴鈴が覗き込むと、飛龍がかぱっと箱の蓋を開けた。中には小麦粉を練って揚げた菓子がぎっしり詰まっていた。
「麻香(マーホア)だわ」
練った生地をひも状に伸ばし、ひねって輪状にした麻香には、胡麻や白砂糖、黒砂糖がまぶしてあった。