恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「美味しそう」
「お前が置いたんじゃないのか」
飛龍は箱を片手で持ったまま、もう片手で懐からぺらりと紙を取り出した。
「星稜王殿下へ」
紙にはそれだけ書かれていた。
「誰かがくれたらしいが、送り主がわからなくてな。少し不気味だ」
眉をひそめる飛龍。鳴鈴は首を傾げた。誰かが好意で置いていってくれたものだろう。どうして不気味だなどと言うのか。
「俺が甘いものを食べないことは、王府の人間は皆知っている。ということは、これは王府で働く者から贈られたのではないということだ」
たしかに飛龍は、みんなが餅を食べているときも、ひとりだけ食べていなかった。食事の席でも後から出される菓子に手をつけているのを見たことがない。
「では、王府を訪ねた商人などでは?」
皇都から珍しい商品を持って星稜まで商売にくる異国人や異民族がたまにいる。
飛龍が留守をしている間に誰かが訪ねてきて、留守番係に託していったのかもしれない。
不在の間に溜まった仕事を片付ける飛龍は、来客記録まではまだ手が回っていなかった。
「そうかもしれないな。念のため、お前は食べるなよ」
「ええ~どうして」
「……池に落とされたのを忘れたか」