恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
鳴鈴をにらむ飛龍の目が光る。
飛龍は一連の事件で、すっかり神経質に、そして疑心暗鬼になっていた。
鳴鈴としては、そこまで心配することでもないと思うのだが、口にすれば「お前は警戒心が薄すぎる」と叱られることはわかっていたので、しぶしぶうなずいた。
「わかりました。でも、目の毒だわ」
視界に入る場所に置いてあったら、食べたくなってしまう。甘い物が何より好きな鳴鈴である。
「侍女たちに託すか。ついでに誰かこれを置いていった人物に心当たりがあるか聞いてこよう」
「あ、じゃあ私が行きます。殿下は執務中でしょう?」
両手を出した鳴鈴に、飛龍はちょっと迷ってから箱を渡した。
「絶対、俺がいいと言うまで食べるんじゃないぞ」
「……は~い……」
どうやら、甘いものに関しては全く信用がないらしい。
飛龍が執務室に戻っていくのを見届け、鳴鈴は踵を返した。ついさっきまでいた侍女たちのいる厨房へ戻る。
厨房の戸を開けようとして、鳴鈴は躊躇った。自分の名前が、中から聞こえてきたようなきがしたから。そっと戸に耳を付けてみた。