恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「ここまでして私たちのご機嫌取りをしたいのかしら、あの小娘」
「あら、でもこの干菓子美味しいわよ」
きゅっと心臓が縮むような思いがした。自分のことを言われていることは、鳴鈴でもすぐにわかった。
「全然殿下に相手にされないものだから、必死なのよ。他ではご主人のお渡りがない妃の扱いはひどいらしいから」
意地悪い声が響く。やっぱり、侍女たちは心の奥で、鳴鈴のことを『大事にされていない妃』と思っているらしい。
「でも私は徐妃さまが好きよ。明るくて素直でいいじゃない」
「そうそう。色気は足りないけど、可愛らしい顔をしているわ。同衾しないのは徐妃さまだけに問題があるせいではない気がするけど?」
どうやら、鳴鈴を好意的に思ってくれている人もいるらしい。少しだけホッとする。しかし次のセリフに鳴鈴の背筋は凍り付いた。
「殿下はまだ、雪花(セツカ)さまが忘れられないのかしらね」
重く響いた言葉は、厨房の中にも沈黙を落とす。
(雪花……って、誰……?)
「あんなに愛していらした雪花さまと一緒になれなかったんだもの。翠蝶徳妃さまの推薦だかなんだかしらないけど、別の妃を無理に娶らされて。殿下が可哀想よ」