恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「怪我をしていては色々と不自由かと思いまして。何でもお手伝いする所存です。なんなりとお申し付けください」
「なんでも……?」
「はい、どんなことでも」
飛龍は少し考える素振りを見せたが、やがて首を横に振った。
「すまん、ほとんどのことは侍女がやってくれた。あとは寝るだけだ」
「まあ、そうですか……完全に出遅れたようですね」
鳴鈴はがっくりと肩を落とした。
怪我をしている飛龍のために、粥を匙ですくってあーんと口を開させて食べさせたり、体を拭いたりしてあげようと思ってきたのだ。
緑礼をからかいたくて『夜這い』などと言ってやったが、本当にそんなことができるほど、鳴鈴は自分に自信を持っていなかった。
ただ、自分から飛龍に近づいていかなければ、これからも何も変わらない。そう思って突撃してきたのに。
「殿下は私をいつも守ってくださるから、私も殿下のお役に立ちたいのに」
治療中は飛龍に近づかないように言われ、素直に待ちぼうけしている場合じゃなかった。
「そんな風に思う必要はない。夫が妃を守るのは当然のことだ」
しっかりとした声で飛龍が言うから、鳴鈴はうなだれていた顔を上げた。
(夫が妃を守るのは、当然……)
飛龍が自分を妃だと認めてくれている。そう思うと、胸が熱くなった。