恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「では、妃が夫を助けるのも当然ですね。怪我が治るまで、ずっと一緒にいます」
「だから、それは大丈夫……」
「いいえ、嫌だと言われてもここにいます」
正直、貴族の娘として生きてきた鳴鈴には、侍女よりできることがはるかに少ない。食事も作れないし、男性の着替えの仕方もわからない。
でも、飛龍の左腕の代わりくらいにはなれるはずだ。物を運んだり、墨をすったり、とにかくなんでもいい。やれることをやりたい。
飛龍は鳴鈴の顔をしばらく見つめ、ため息をついた。
「勝手にしろ」
「はい、勝手にします!」
皇城で再会したときのことを思い出す鳴鈴。彼女が飛龍に嫁ぐと宣言した時も、彼はそう言った。
「ゆっくりお休みなさいませ」
ふっと近くにあった蝋燭を吹き消すと、辺りは真っ暗になった。飛龍が諦めたように牀榻に横になると、暗闇の中で奇妙な歌声が聞こえてきた。
「お眠りなさ~い~、ゆ~っくり~安ぅぅぅ~らぁ~かにいぃ~」
途中で何度も裏返り、掠れる歌声に飛龍は飛び起きた。
「なんだそれは! 呪いの歌か!」
「まあ嫌だ殿下ったら。子守歌に決まっているじゃありませんか」
「嘘だろ? ……とにかくやめてくれ。眠れない」