恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
心を込めて歌ったが、飛龍のお気には召さなかったようだ。鳴鈴はしょぼんと肩をすくめた。
「どうしてあんなに笛が上手いのに、歌はダメなんだ」
飛龍にぽんと頭を叩かれ、鳴鈴が彼を見上げる。暗闇に慣れてきた目に、飛龍の苦笑したような顔が見えた。
「仕方ない。ここに来い、鳴鈴。お前も寝ろ」
大人四人くらいが寝られそうな広い牀榻の真ん中から少しずれ、自分の隣を右手でぽんぽんと叩く飛龍。その仕草に鳴鈴は飛び跳ねた。
「いいのですかっ?」
「その代わり、静かにしていろよ」
「はい!」
飛龍が空けてくれた場所に、鳴鈴は座った。するりと上襦を脱ぎ、枕元に置く。簪を取ると、横髪がはらりと肩にかかった。
いそいそと飛龍の隣に横たわり、彼の怪我をしていない右腕にぴたりと寄り添う。初夜のときのように、背中を向けられないだけで幸せだった。
しかし、まだ就寝時間には少し早いせいか、隣から寝息が聞こえてこない。鳴鈴にもなかなか眠りが訪れなかった。
先ほどの光景が、瞼の裏によみがえる。狂乱した侍女の死の舞踏。一歩間違えたら、ああなっていたのは飛龍や自分だったかもしれない。そう思うと余計に眠れなくなる。