恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
(いったい誰が、私や殿下を狙っているの?)
池に落とす、弓で射る、毒を盛る。それぞれ離れた場所で起きたそれが、一個人の手によるものとは考えにくい。
では、誰かが裏で手を引いているのか。
悶々と考え込みそうになったところに、飛龍のため息が聞こえた。
「眠れないな」
「実は、私も」
飛龍がむくりと起き上がる。鳴鈴もそれに倣った。
「気になっているだろう。あの【雪呪】という言葉を」
麻香の箱に忍ばされていたという、あの紙。何かしらの意図を伝えようとしているようにしか思えない。
「昔から俺に仕えている人間は、すぐにこう思ったことだろう。最近立て続けに起きる受難は、雪花の呪いだったのか、と」
鳴鈴は思わず飛龍の方を見た。その横顔はじっと暗闇を見つめていた。
「長い昔話になるが、聞いてくれるか」
目を合わせずに呟く飛龍に、鳴鈴は「はい」と一言返した。