恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜


◆◆


──十年前。

まだ飛龍が星稜王に封じられる前の話。今の皇太子である長兄の上に、もうひとり飛龍には兄がいた。

「お前はまだ幼かったから知らないだろうが、そいつが当時、一番有力な皇太子候補だった」

飛龍は当時を思い出すように、そっと目を閉じた。

まだ皇子たちが皇城で暮らしていた時代があった。年長のものから徐々にそれぞれの領地の王に封ぜられ、妃を迎え始めたときのこと。

飛龍は、ひとりの貴族の娘と出会う。当時飛龍の側近だった兵士の娘で、名前を雪花といった。

その名の通り、雪のような白く透き通った肌と、花びらのような唇を持った娘だった。しかし彼女はその清廉な容姿からは想像できないくらい活動的で、父親の頭を悩ませていた。

「手合わせ願います、殿下!」

「いいだろう」

雪花はたびたび飛龍に武芸の勝負を挑んだ。

頭もよく武芸もできる凛とした彼女は、皇子たちに人気があった。特に秦貴妃の息子、長兄・宿鵬(シュクホウ)は雪花を強く欲していた。

「俺が雪花をもらう」

宣言した宿鵬の前に飛龍が立ちはだかる。

< 136 / 249 >

この作品をシェア

pagetop