恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「飛龍には跳びぬけた戦の才がある。飛龍を立太子するぞ」
皇帝は飛龍の働きを大いに褒め、長兄、次兄を差し置いて第三皇子だった飛龍を皇太子に任命した。
飛龍は自分の能力が評価されたことを素直に嬉しく思い、雪花と一緒に手を取りあって立太子されたことを喜んだ。
しかし、これを宿鵬が諸手を上げて祝福できるわけはなかったのである。
ある日のこと。
飛龍が暮らしていた東宮へ、悲報が届いた。雪花が何者かに襲われ、大怪我を負ったという。
驚いた飛龍はすぐさま馬を飛ばし、雪花の屋敷へ向かった。
案内された部屋で、雪花は横になっていた。
「雪花」
飛龍が呼んでも、雪花は目を閉じたまま動かない。誰かに殴られたのか、美しい顔が原型を想像できないほどに腫れあがっていた。目の周りには痛々しい青痣まで。
「ひとりで武芸の稽古をしているときに、賊に襲われたようです」
父親の武将が目頭を押さえた。
屋敷の裏の竹藪でひとりきりで稽古をしていたところを襲われた雪花。彼女の全身には打撲の跡が。そして決定打になったのは、腹の刺し傷だという。