恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「服を脱がされかけていましたが、貞操だけは必死に守ったようです。抵抗したから、相手は逆上したのでしょう。だからこれだけの傷が……」
激しい憎悪と悲しみに、飛龍はめまいを覚えた。彼女が自分への操を貫いてくれたとしても、この状態で喜べるわけがない。
「現場にこれが」
差し出されたのは、金の指輪だった。やけに豪華なそれに、飛龍は見覚えがあった。
「宿鵬め……!」
派手好きの宿鵬が、戦のときも外さずに付けていた金の指輪だということに思い至るまで、時間はかからなかった。
その後ほどなくして、虫の息だった雪花は亡くなった。
飛龍は彼女の耳についていた、片方だけになった耳飾りを、彼女の形見として譲り受けた。
処女のまま亡くなった婚約者のため、飛龍は盛大な葬式を挙げ、立派な廟を建てた。
「絶対に俺が仇を討ってやる。お前の怒りは痛いほどわかるが、ここは堪えてくれ」
雪花の父親にそう言い聞かせた飛龍は、どうやって宿鵬を追いつめるかを考えていた。
(殺してなどやらない。再起不能にし、死ぬまで苦しませてやる)
皇太子という地位を利用してでも、宿鵬に地獄を見せてやる。しかし相手は皇族だ。皇族殺しには一族殲滅という重い刑が科せられる。
皇太子である飛龍も、下手をして皇帝にバレたらこの地位がどうなるかわからない。