恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
捌・よみがえる悪夢
飛龍の傷は順調に回復し、十日で抜糸に至った。
その後は「普段通りの生活はいいが、激しい運動はひと月立つまで禁止」と侍医に言われ、抜糸から二十日、ただの添い寝をしていた飛龍と鳴鈴夫婦であった。
飛龍が右手を使えない間、鳴鈴はかいがいしく彼の仕事や、生活の手伝いをした。
そして、飛龍が怪我をしてから、ついにひと月が経った夜。
(ついに……ついにこの時が……!)
夕方、飛龍から侍女たちに鳴鈴と共寝をするという通達がされた。
彼の性格からすれば、誰にも言わず黙って結ばれたいものであるが、基本的に皇族の妃は共寝の支度を侍女に手伝ってもらわねばならない習わしがある。
彼女たちには湯浴みの際に念入りに妃の体をこすり、同衾用の赤い衣を着付け、濡れた髪を乾かして梳き、寝化粧まで施す必要があった。
「ねえ緑礼、私おかしいところはないかしら?」
「ええ、いつものように可愛らしいです」
洞房でこくりと微笑んでうなずいた緑礼に、鳴鈴はむくれて返す。
「可愛い、じゃダメよ。妖艶、とか色っぽい、とかじゃないと」
いざ同衾となっても、色気のない自分に飛龍はがっかりしないだろうか。鳴鈴は今更心配になってきた。