恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「そういう雰囲気は、一朝一夕で出るようなものではないかと……」
「うう、やっぱりそうよね」
「まあ、これから殿下に愛されれば、それなりに色っぽくなっていくんじゃないですか?」
面倒臭くなってきたのか、適当に返した緑礼は、すっと立ち上がった。
「どこへ行くの?」
「もうすぐ殿下が来られるでしょう」
「ああ、そっか……」
緑礼がこのまま一緒にいて飛龍と顔をあわせるのも気まずいけど、ひとりで彼を待つ緊張を紛らわせてくれる彼女がいなくなるのは心細い。
仕方なく緑礼の背中を見送ると、入れ違いのように侍女が現れた。
「星稜王殿下のおなりでございます」
初夜の日からだいぶ日が経っているからか、侍女は緊張した面持ちで言う。
鳴鈴が褥の傍に座ったまましゃきんと背を伸ばすと、侍女が出ていく。鳴鈴は耳の後ろで、どくんどくんと血管が脈打っているのを感じた。
開けられた引き戸の間から、飛龍が現れた。光沢のある襟の詰まった胡服に、赤い帯を締めている。
彼が部屋の中に入るなり、戸が閉められた。
部屋の中は暗く、赤い蝋燭の灯りだけが二人きりの空間を照らす。