恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
玖・名前を呼んで
翌朝、飛龍は馬仁を尋問する許可を皇帝に求めた。
「あの者はお前に対して個人的な恨みを持っている。他の者に任せた方が良かろう」
馬仁は飛龍に対しては意地があるので、どれだけ拷問を受けさせようと、これ以上何も話さない可能性があると皇帝は言う。
そこで代わりに呼ばれたのが、現皇太子だった。顔立ちも語調も優しいので、彼が問いただせばぽろりと本音を零すかもしれないというのが、皇帝の狙いだった。
「尋問が終わるまで、帰れないではないか」
飛龍は星稜王府に向けて文を書く。政に関するそれは自然と長くなり、鳴鈴はそれを重ならないように伸ばして乾かす手伝いをしていた。
「皇太子殿下は有能だが、いかんせん優しすぎるきらいがある。相手に同情してしまって、じゅうぶんに話を聞きだせないのではないか」
「それは殿下も同じです。梁家に対する申し訳ない気持ちがあるでしょう。主上はそれをお分かりなんですよ、きっと」
団扇で手紙が舞い上がらないようにそっと仰ぎながら鳴鈴が言うと、飛龍はぐっと喉を詰まらせるように黙った。
「お妃さま、その意気です」