恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

はっと鳴鈴は目を開けた。

自分はこの温かさを知っている。しっかりと抱きとめてくれる力強い腕。これはまさか──。

覚悟して顔を上げた。

果たして、そこにいたのは、あの賊に襲われたところを助けてくれた男だった。

長い髪の上半分を後ろに結い上げた眉目秀麗な男は、鳴鈴を見て切れ長の目を見開いていた。

「あなたは、あの時の!」

思わず叫んだ鳴鈴は、男の腕で持ち上げられ、地面にそっと降ろされる。

男は胡服ではなく、水色の長衣の上に群青色の外衣を纏っている。袖や襟の縁の金色の模様が、あのとき借りた外衣と似ていた。

「あら……知り合いなの飛龍?」

翠蝶徳妃が不思議そうな顔で二人を見る。後ろから出遅れた緑礼が駆けつけた。

(この人が星稜王、向飛龍!?)

鳴鈴は驚いた。思っていたのと違う。今まで一度も妃を迎えたことがないというので、クマみたいなむさくるしい変態(しかも男色家)を勝手にイメージしてしまっていたのだ。

「いいえ、覚えていません」

飛龍は翠蝶徳妃に向かって首を横に振る。

「どうして嘘をつくんですか。今、絶対にハッとした顔しましたよ。私のこと、覚えていらっしゃるんでしょう?」

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