恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
拾・笛の音
翌朝の空は、薄く雲がかかっていた。
鳴鈴は翠蝶徳妃の計らいで、普段より華麗な衣装を身に付け、城門前に現れた。今日は後頭部に捩った輪を二つ並べた百合髻に結い、絹花で飾っている。
緑礼や宇春、怪我がよくなってきた翠蝶徳妃と共に並んでいると、部隊の先頭にいる飛龍が手招きした。
「こっちへ来てくれ、鳴鈴」
呼ばれて、鳴鈴は躊躇しながらも一歩踏み出す。
門前広場から続く広い階段の上に、皇帝や皇后、皇太子、その妃たちもいた。見られていると思うと緊張する。
横顔を彩る金歩揺が、飛龍に近づくたび、ゆらゆらと揺れた。
「飛龍さま……」
甲冑を付けた凛々しい夫を目の前にすると、また鳴鈴の目に涙が浮かんでくる。
皇帝の信頼を受け出陣することは、喜ばしいことだ。泣いたりしてはいけない。
わかっているのに、飛龍と離れ離れになると思うと、胸が張り裂けそうだった。
「こら、泣くな。すぐに帰ってくると言っているだろう」
「わかっています。でも涙が勝手に出てくるの……」
くしゃりと顔を歪めた鳴鈴を、飛龍が抱き寄せる。彼は周りも気にせず、その額に優しく口づけた。