恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「それにしても、おめでとうございます」
「え? なにが?」
「ようやく……事を済まされたようで」
さっと頬に朱を注ぐ鳴鈴。
「どどど、どうしてそれを」
「宮廷女官たちが噂していました」
女官たちは毎晩閨を整え、毎朝敷布の取り換えにやってくる。そのとき、独特の濃い空気に気づかれたのだろう。
「体は無事ですか」
「無事よ。全然、大丈夫。あ、そうだ用事を思い出した。ちょっと出てくるわね」
鳴鈴はとても不自然に部屋を出ていき、当てもなく廊下をさまよう。
本で学んだことはもう忘れかけていたので、ぼんやりとした印象しかなかった行為は、とてつもなく恥ずかしいものだった。
飛龍はそんな鳴鈴を優しく導いてくれた。初回の苦痛はもちろんあったが、それを忘れるくらい、彼の思いやりに幸せを感じた。
(でもやっぱり、恥ずかしい)
かつて花朝節の宴で皇子の妃たちが自分たちの閨事を明け透けに話していたことを思い出す。鳴鈴にはとても、同じように話に参加することはできそうになかった。
頭を冷やそうと、広い皇城を探索するように歩き続ける。
(そうだ、宇春……)
ふと鳴鈴の頭に、友人の顔が浮かぶ。宇春には色々と心配をかけてしまったし、一応報告した方がいいのかと廊下で立ち止まって悩んでいると。