恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
自分の馬車の周りを、見知らぬ男たちが取り囲んでいる。月明かりしか頼るものがないため、その顔はわからない。しかし、その者たちが手に握る剣の切っ先はやけに光って見えた。
馬を落ち着かせようとする御者と、それぞれ馬に乗った五人の護衛が鳴鈴の乗っている車に近づく。
「お嬢様、顔を出さないで!」
侍従の緑礼(リョクレイ)が鳴鈴の肩を押し、箱の中に戻した。
緑礼は鳴鈴と同じ十八歳。丸襟の長袍(チョウホウ)に身を包んだ凛々しい若者は、すらりと自らの剣を抜く。
最近は帝都の治安が悪いと聞いたことがある。だけど、皇城からそう離れていない実家までの道のりで、まさか自分が賊に襲われることになろうとは。
周りには竹藪があるだけ。民家も貴族の屋敷もない。助けを求めるのは不可能そうだ。
「何者だ。何を求める」
緑礼の問いに、賊は答えない。何も要求しない代わりに、言葉にならない叫び声を上げ、一斉に鳴鈴の乗っている馬車を取り囲んだ。
賊と護衛たちの剣が交わる音を聞きながら、鳴鈴は震えていた。そうすればこの場を切り抜けられるか、必死で考える。