恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

袖をつかんで見上げるけど、飛龍は鳴鈴と目を合わせようともしない。まさか、本当に覚えていないのでは。鳴鈴は泣きそうになってきた。

「鳴鈴、どういうこと?」

翠蝶徳妃に尋ねられ、鳴鈴はぽつぽつとあの夜の事情を話した。

「まあ、そんなことが。私が遅くまで引き留めてしまったせいで……ごめんなさいね」

「いいえいいえ! 翠蝶徳妃さまは何も悪くありません!」

「私の可愛い鳴鈴を助けてくれてありがとう、飛龍。これは運命の出会いね」

「別に。主上の命令で王都の見回りをしていたらたまたま彼女が襲われていたのです。何も運命的なことではありませんよ」

笑いかけられた飛龍だが、身もふたもない返し方をする。

「鳴鈴、私には子供ができなかったでしょう。飛龍のお母様は主上の側妃だったのだけどね、彼が幼い頃に亡くなってしまったの」

皇帝に飛龍の義理の母となるように命じられ、飛龍を自分の子と思って後宮で世話を焼いてきた。翠蝶徳妃はそう語った。

やがて飛龍は成長し、星稜王の称号を与えられ、後宮から出ていくことに。それから翠蝶徳妃はずっと独身の飛龍の身を案じていたという。

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