恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「あら?」
いつの間にか、宮殿の端っこに来ていたらしい。
飾り気のない、庭とも言えない空間に、ぽつんと蔵のような小さな建物があった。
(もしや、ここは)
鳴鈴の脳裏にふと閃く。馬仁が尋問されていたというのは、この宮殿の近くにある建物ではなかったか。
皇城の敷地には三つの宮殿とそれに付随した建物群がある。一番大きく、政の中枢となっているのが大極宮で、その周りには政を行う館が四棟建てられている。
飛龍と鳴鈴が部屋を借りていたのはその西にある宮殿で、その片隅に拷問場があると飛龍が言っていたような。
ここで何人もの罪人が尋問や拷問を受けていたと思うと、身の毛がよだつ。どんなひどいことをされていたか、想像もできなかった。
(馬仁はどうして死ななくてはならなかったのかしら。毒を飲んだって、どうやって……)
鳴鈴は勇気を出し、廊下の端の階段から地上に降りた。近くで見る拷問場の壁のシミが、一層不気味な気持ちにさせる。
この中を調べれば、何かわかるかもしれない。何の根拠もなくそう思った鳴鈴は、ふと入口を見た。
「どうして……」
彼女は思わずつぶやく。取りつけられている海老錠の閂が外れていたからだ。