恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
今まさにこの中で、誰かが尋問、あるいは拷問されているかも。そう思うと、体が自然に後ろに一歩ひいた。
しかし、その中からはまったく物音が聞こえてこない。不思議に思って再度近づいてみるも、やっぱり何も聞こえてこない。
(単なる鍵のかけ忘れ?)
だとしたら、誰かに知らせなくてはならない。このままにしておいたら、馬仁が死んだ痕跡が踏み荒らされてしまうかも。
鳴鈴は決心し、扉をそっと両手のひらで押してみた。中に誰かいたら、すぐに退散する。いなければ、誰かに知らせる。
少しの隙間から確認だけして去るつもりだった。しかし。
「母上、もうこんなことはおやめください」
誰かの小さな声が聞こえ、鳴鈴は扉に耳を付けて息をひそめた。
「すべてはあなたのためなのですよ」
中年の女性の声が答えた。
(この声、どこかで……)
鳴鈴は首を傾げる。いったい、女性がこんなところで何の話をしているのだろう。
「あの邪魔な星稜王を片付けなければ。あなたが無事に皇帝になるまでは……いいえ、即位したあとも、その地位を確実なものにするため、母は何でもします」
星稜王という単語が、鳴鈴の鼓膜を叩いた。片付けると言ったその意味を飲み込まないうち、会話は続けられる。