恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「母上に任せていては、兄弟全員殺されかねない」
「そんなことはありません。星稜王は特別なのです。あなたは主上が最近なんとおっしゃっているかご存知?」
星稜王と聞くと、鳴鈴はたちまち我慢ができなくなる。
手で押しただけでは扉はなかなか開かない。体ごと扉に押し付けてやっと隙間ができた。
そっと中をのぞくも、窓が締め切られ、ほとんど日の光の射さない建物の中は、夜のように暗い。
2人いる。声の通り、男と女のようだ。女は美しく結われた高髻と華美な髪飾りが揺れるのがなんとなく見えた。高貴な身分の女性だろうか。
「星稜王に赤子が生まれたら、再度彼を立太子しようかとおっしゃっているのよ」
「なんですって」
男が息を飲む。と同時に鳴鈴もごくりと喉を鳴らした。
(飛龍さまを皇太子に、ですって?)
飛龍は一度廃位された身だ。その後十年妃も娶らなかった。北の地で、野心を持たずに朴訥とした毎日を送っていた。そんな飛龍がなぜ、立太子など。
鳴鈴の疑問に答えるように、女が口を開く。