恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「主上は星稜王に惚れこんでいるからよ。昔から彼を皇帝にし、その血を受けた者にさらに後を継がせたがっている」
「誰がそんなことを」
「本人が自分の側近によく漏らしているのよ」
最初は淡々としていた女の口調に、怒気が生まれる。吐き捨てるようにして言われた男は、一瞬口をつぐんだ。
(そんな……)
キリキリと胃が痛んでくるような気がして、鳴鈴は腹を押さえた。動悸は激しく、汗が吹き出してきた。
(主上がそんなことを)
飛龍に戦の褒美として二十人の美女を贈るなどと言ったのも、今考えてみれば、早く飛龍に子を作ってほしかったからだ。
子を残せなければ、権力争いの第一線からは遠ざかることができる。だから飛龍は妃を娶らなかったし、愛人も作らなかった。
鳴鈴を抱かなかったのには、そういった理由もあったのだ。
「あなたは万事、私に任せておきなさい。もう少しで星稜王を亡き者にすることができるわ」
亡き者。その言葉が鳴鈴の心臓を締め上げた。
「萩が攻めてきたなんて大嘘。すべては星稜王を国外に引きずり出し、私の息がかかった兵士たちに殺させるための罠よ」
笑いが混じった高らかな声に、鳴鈴はやっと気づいた。