恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
(この声、武皇后さまだ)
しかし、皇后がなぜ、そんな恐ろしいことを。
震える足で、扉から離れる。しかし、遅かった。
「誰だ!」
隙間から差し込む光に気づかれたらしい。扉を大きく開けられ、鳴鈴はその場に転んで尻餅をついた。
見上げた視線の先には、驚いた顔の皇太子が立っていた。
「徐妃……」
皇太子の後ろから、こつこつと靴音が聞こえてくる。鳴鈴ははじけたように立ち上がり、駆け出す。ここにいては殺される。
飛龍の子を宿す可能性がある鳴鈴を、皇后は殺害しようとしたのだ。自分の子である皇太子の位を守るために。
彼女なら、花朝節の宴のときに皇城内に刺客を招きいれることなど容易い。
馬仁とどこで出会ったかはわからないが、飛龍に恨みのある彼や盗賊の仲間を使い、次々に飛龍や鳴鈴、翠蝶徳妃までをも襲わせた。
おそらく毒入菓子も花朝節から帰るときに荷物に紛れ込ませたのだろう。そして、星稜に潜り込ませておいた誰かに、飛龍のもとへ運ばせた。
今までの事件が鳴鈴の頭の中を駆け巡る。
すべては、自分が飛龍に嫁いだときから始まった。
(早く、早くしないと──)
武皇后が言っていたことが本当なら、飛龍に危険が迫っている。