恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
皇后は飛龍に付き従わせた兵士たちに、彼を暗殺するように命じたのだろう。
飛龍の側近ふたり以外は、みんな皇城の兵士だ。飛龍は無防備な状態で敵に囲まれていると言っていい。
何度も転びそうになりながら、鳴鈴は翠蝶徳妃のもとへ飛び込んだ。後宮なら、皇后本人は来られても、男の追っ手は容易く入って来られないだろうと思ったからだ。
「まあ、どうしたの鳴鈴」
徳妃は、部屋の椅子に座ってお茶を飲んでいた。ただごとではない鳴鈴の様子に立ち上がる。
「徳妃さま……飛龍さまが、飛龍さまが……!」
翠蝶徳妃の顔を見た途端、胸から不安が溢れだした。鳴鈴は彼女が怪我をしていることも忘れて抱きついた。
「どうしたの。落ち着いて」
徳妃の声は優しかったが、鳴鈴がすぐ落ち着けるわけはなかった。彼女は震える体を抑えもせず、今あったことを全て彼女に話した。