恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

✢✢

武皇后は、扉を開けた皇太子の元に歩み寄る。突然の日の光が眩しくて、外がよく見えなかった。

「誰かいたの?」

尋ねると、皇太子が振り向き、小さく首を横に振った。

「いいえ。ウサギが迷い込んでいただけです」

「ウサギ? 珍しいわね」

ウサギは少し山の奥に入ればよく遭遇する。しかし、皇城に迷い込むのは珍しい。

後宮の誰かが愛玩用として飼っていたのか、食料として仕入れたものか、いずれにせよウサギなら問題はない。

「本当にウサギだったのね?」

皇后は皇太子をじろりと睨みつける。彼は視線を合わせないまま、こくりと頷いた。

なにか隠しているのかもしれない。皇后はそう直感した。

(まあいい。ここでこの私に逆らえる者は皇帝以外にいない)

誰かに今の話を聞かれていたとしても問題はない。早く星稜王を亡き者にし、その後は皇帝を暗殺する。そうすれば、皇位につくのは自分の息子しかいない。

皇帝に愛情などない。彼は正妃である自分より秦貴妃や、飛龍の母を先に愛し、その子供たちを可愛がった。

彼女らが後宮からいなくなったと思えば、皇帝は子を成すことができなかった翠蝶徳妃を溺愛し、飛龍を彼女に託した。
< 206 / 249 >

この作品をシェア

pagetop