恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
宿鵬と飛龍が次々に廃位され、やっと今の皇太子に目が向けられたわけだが、それまで自分がどれほど後宮で肩身の狭い思いをしたか。
皇后は唇を噛んだ。彼女の頭の中には、もう自分の息子を皇位に就かせることしかない。
「これから、どうするおつもりですか」
「徐妃を捕えるの。彼女はもし星稜王が生き延びてしまったときに脅す材料になる」
皇太子に応える皇后の目が冷たく光った。
五十の兵士をたったひとり、側近を合わせれば三人で倒せるとは思っていない。ただ、もしかしたら運よく逃げて生き延びる可能性も零ではない。
その場合は、事の顛末が皇帝に知られるより早く、次の手を打たなければならない。鳴鈴は飛龍を脅す材料になるはず。最終的には、二人仲良くあの世に送ることになる。
「けれど、皇城内でこれ以上騒ぎを起こすわけにはいかない。馬仁を始末してしまったものね」
馬仁を利用し、そして本当のことをしゃべらないうちに殺したのが武皇后だということを、皇太子は既に知っている。
彼が皇帝の前に引き出されたとき。「皇后さま」と叫ぶ馬仁にヒヤヒヤしたものだ。
「徐妃が皇都の門をくぐってから、賊の仕業に見せかけて襲わせるのよ。馬仁の仲間にね。さあ、もう行きなさい。あとは私に任せて」