恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
皇太子は何かを言いかけたが結局口を閉じた。ぺこりと頭を下げ、その場から走り去っていく。その背中を見ながら、皇后は建物から出て鍵を閉めた。
「焦ることはないわ」
皇后はゆっくり後宮の自室に戻ると、ずっと彼女と結託している宦官を呼び、鳴鈴を捕えるように命じた。
あと少し。あと少しで、自分の悲願は果たされる──。
誰もいなくなった部屋で極上の葡萄酒を煽り、皇后はくつくつと声を殺して笑った。
手の中で揺れる葡萄酒に、不吉な波紋が広がっていた。