恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「やはり、こんな子供っぽい娘、相手にしてもらえないのでしょうか……」
出会った時から、少し年上だろうと思っていた。飛龍は若く見えるため、十一も離れているとは予測していなかったけど。
(今まで何の縁談もなかったのだもの……私に皇子さまの心を射止めるなんて、無理なのかしら)
じわっと鳴鈴の目に涙が浮かぶ。自分を童顔に生んだ母を恨んだ。
「いや、あなた個人が気に入らないのではなく……俺が独身主義だというだけで」
しゅんと萎れた鳴鈴にぎょっとし、ぼそぼそと言い訳をする飛龍を、翠蝶徳妃がきっとにらむ。
「ダメよ、飛龍。この縁談は主上の御名のもとにすすめていますからね。あなたに拒否権はなくてよ」
「そんなバカな。徐氏、あなたは本当にいいのか。俺に恩を感じることはない。あなたを心から求める男に嫁いだ方が幸せに決まっている。もっとよく考えろ」
眉間にシワを寄せて鳴鈴を見つめる。
しかし鳴鈴はぶんぶんと首を横に振った。
「私はあなたに嫁ぐと決めたのですっ」
決然と言い放たれた言葉にあんぐりと口を開けたが、すぐ閉じた飛龍。長い後ろ髪をなびかせ、くるりと後ろを向いてしまった。
「──ならば、勝手にするがいい」
すたすたと歩いていってしまう飛龍を、残された者たちはしばらく見送っていた。