恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
しかし、呼子を吹けたのだから生きているはずだ。鳴鈴はすぐさま、彼の元に駆け寄った。
「飛龍さま、私です。鳴鈴です」
彼の頬を叩くと、閉じられていたまぶたが微かに動いた。
ゆっくりと開く瞳を縁どる長いまつ毛が、彼の頬に影をつくる。
「やっと見つけました」
まばたきする飛龍の頬に、鳴鈴の大きな目から零れた涙が落ちる。
「鳴鈴……本物か?」
乾いた唇から掠れた声が聞こえた。鳴鈴は必死で首を縦に振る。
「今度は男装か……意外に可愛いな」
弱弱しく差し出された飛龍の手を握り、濡れた頬に当てる。手のひらの温かさを感じ、余計に涙が溢れた。
「笛の音が……聞こえた」
わずかに開いた瞳が微笑む。
「お前はいつも、俺を助けてくれる……」
「何をおっしゃっているのです。私こそ、飛龍さまに助けてもらってばかりで」
「そんなことはない。俺はいつも、お前に……救われて、いる」
息が苦しいのか、途切れ途切れになる声が不意に心配になる。
「もう話さないで。帰りましょう、飛龍さま」
髪を撫でると、飛龍はうなずいてまぶたを閉じた。目を開けていることすらままならないくらい、消耗しているようだ。