恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
よく呼子を吹けたものだと、鳴鈴は感心してしまう。脱力した彼の手の平から、連絡用の小さな呼子がころりと転がった。
「鳴鈴……」
「はい、飛龍さま」
「そこにいるか」
「はい」
「もう離れるな」
それきり、飛龍は口を閉じた。一瞬ドキリとした鳴鈴だが、耳を当てると口はちゃんと息をしているし、心臓も動いているのがわかる。
「私はくっついていたいのに、あなたが離れていってしまうのよ。いつも、いつも」
鳴鈴は溢れる涙をぬぐいもせず、愛しい夫の胸に寄り添った。
「でもこれからは、傍にいていいのですね」
いつもより弱弱しくても、飛龍の胸は確実に鼓動を打ち続けている。
やっと心から安堵した鳴鈴は、胸に溜まっていた不安を全て吐き出すように、声を上げて泣いた。
夕空に輝く一番星が、静かにふたりを見守っていた。