恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
飛龍の報告を受けた皇帝の目に怒りの炎が灯った。
「いったい誰だ! 私の兵を使い、お前を亡き者にしようとした者は!」
彼の怒号に、宮殿ごと震えあがる。鳴鈴もその声のあまりの恐ろしさに、深く首を垂れた。
「それは、陛下の一番近くにいらっしゃる女性です」
たったひとり、淡々と答える飛龍の言葉に従い、皇帝がゆっくりと後ろを振り向く。そこには表情をなくしたままの皇后が立ちすくんでいた。
「まさか、お前が……」
今にも相手を殴り倒しそうな顔をしている皇帝に、武皇后は静かに口を開く。
「何の証拠があるのです? 星稜王殿下、また皇太子の地位がほしくなったからといって、妙な言いがかりをつけないでいただきたいわ」
扇で口元を隠していけしゃあしゃあとしゃべる様子に、鳴鈴は逆に感心してしまう。
どうすれば、あれほど厚顔無恥になれるのかと。
「生きる証拠なら、ここに」
飛龍たち一行の後ろから声がした。鳴鈴が振り向くと、そこにはいつもの男装に持った緑礼と、星稜王府の人々が。
彼らに突き出されたのは、縄で縛られた盗賊たちだった。