恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「おい……」
たった一瞬で爆睡か。そんなに疲れていたのか。
飛龍は申し訳なく思いながら、鳴鈴の体をそっと褥に横たえた。
「バカだな、お前は」
鳴鈴は飛龍が自分を女として見てくれなくなったのでは、と不安に思っていたらしい。
(そんなわけないのに)
飛龍はそっと、眠る鳴鈴に口づけた。
彼女はずっと、飛龍にとって可愛い妻だ。
例え髪を振り乱して育児に奮闘していても、すっぴんで薄物一枚でも、それは変わらない。
出産を重ねる鳴鈴の体が消耗しないよう、滋養のある食事を用意するように命令していたが、彼女が望むのはそういうことではなかたようだ。
(昔から、そうか。ちゃんと言ってやらないとお前は不安になるんだったな)
綺麗だ。可愛い。愛している、と。
飛龍がそう言うだけで、鳴鈴は水を得た花のように輝きだす。
知っていたはずなのに、子供が生まれて「家族」になってしまった途端、照れくさくてなかなか言えずにいた。
(これからはちゃんと、言うようにしよう。愛している、鳴鈴)
飛龍は冕冠を取り、そっと鳴鈴の隣に体を横たえた。
その後も仲睦まじく暮らしたふたり。
飛龍はその命が果てるまで、ついに側妃を娶ることはなく、変わり者の皇帝として後世に名を残すことになる。
鳴鈴が残した子は合計七人。
それぞれが王宮で多彩な物語を描いていくことになるのだが……それはまた、別の話。
【end】