恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「今日は疲れたな。お前も無理することはない。眠ろう」
「え……」
たしかに疲れてはいる。慣れない冠や衣装で首や体が痛い。でも、疲れたから初夜をさぼるなんて、聞いたことがない。
「周りには無事に床入りしたと言っておけばいい」
「ででで、でも」
「これからよろしく頼む。おやすみ」
新郎は無情にも新婦に背中を向け、瞼を閉じてしまう。
冗談だろうと少し待っていると、すぐに寝息が聞こえてきた。
(ちょっと。本気で寝ちゃったの!?)
思わず起き上がって覗き込む。飛龍の自然な寝顔を見て、鳴鈴はどっと脱力した。
緊張して待っていたのがバカみたいだ。帯もほどいてもらえないとは。それ以前に、口づけすらされないなんて。
(そんなに私との結婚が嫌だったの……?)
じわりと涙が目に浮かぶ。
飛龍は、「義務を果たす」と言った。それは父である皇帝に押し付けられた花嫁を、責任を持って養う、ということなのだろうか。
この結婚に愛情などない、ただの義務なのだと──。
(そう、言ったのね)
脱力してしぼんだ胸が、握りつぶされるように痛い。