恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

「今日は疲れたな。お前も無理することはない。眠ろう」

「え……」

たしかに疲れてはいる。慣れない冠や衣装で首や体が痛い。でも、疲れたから初夜をさぼるなんて、聞いたことがない。

「周りには無事に床入りしたと言っておけばいい」

「ででで、でも」

「これからよろしく頼む。おやすみ」

新郎は無情にも新婦に背中を向け、瞼を閉じてしまう。

冗談だろうと少し待っていると、すぐに寝息が聞こえてきた。

(ちょっと。本気で寝ちゃったの!?)

思わず起き上がって覗き込む。飛龍の自然な寝顔を見て、鳴鈴はどっと脱力した。

緊張して待っていたのがバカみたいだ。帯もほどいてもらえないとは。それ以前に、口づけすらされないなんて。

(そんなに私との結婚が嫌だったの……?)

じわりと涙が目に浮かぶ。

飛龍は、「義務を果たす」と言った。それは父である皇帝に押し付けられた花嫁を、責任を持って養う、ということなのだろうか。

この結婚に愛情などない、ただの義務なのだと──。

(そう、言ったのね)

脱力してしぼんだ胸が、握りつぶされるように痛い。


< 27 / 249 >

この作品をシェア

pagetop