恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
あんなに恋焦がれた初恋の人との初夜で、背中を向けられてしまった。
ずっと触れたかった広い背中が今は憎らしい。
鳴鈴は静かに泣いた。ぽろぽろと、ただ涙をこぼすことしかできなかった。
こんなに惨めな花嫁が、他にいるだろうか。
悪い方へ考え出すと、どんどんと涙が溢れてくる。
(まだ結婚したばかりだもん。男の人だって緊張するわ。今後一度も抱いてもらえないわけじゃない。きっと、そのうち、仲良くなれるはず。本当の夫婦に……)
無理やり気持ちを切り替え、褥の中に戻る。
鳴鈴はそっと、飛龍の背中に寄り添った。
彼の温かさを布越しに感じると、どうしてか、また涙が出てくる。
(拭いてやる。涙も鼻水も、殿下の背中で拭いてやるんだからー!)
鳴鈴はぎゅうと飛龍の背中に顔を押し付けた。化粧が転写されたって知らない。花嫁を放って寝る方が悪いに決まっている。
体は疲れているし、ひどく緊張した心が緩んだ。その隙に襲ってきた睡魔に支配された鳴鈴は、飛龍にくっついたままぐっすりと眠りこけてしまったのだった。