恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
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……泣いている。
初夜の新郎の務めを放棄し、寝たふりをしていた飛龍の背中に、鳴鈴のすすり泣きが聞こえてきた。
(泣くなよ……)
正直、飛龍は困り果てていた。
皇帝である父の命令で、仕方なくした結婚だ。いや、正しくは翠蝶徳妃の猛推薦なのだが。
母亡き後、義母として代わりに面倒を見てくれた翠蝶徳妃に対する恩義はもちろんある。だが、それとこれとは別だ。
自分ははっきりと、妃を娶らない主義だと言った。つまり、妃などいらないのだ。それなのにこの娘は……。
出陣の命令がなければ、普段の飛龍は領地の政(マツリゴト)をしている。鳴鈴を助けた日はちょうど皇帝を訪ねていて、ついでに治安が悪くなっているという王都の見回りをしていた。
あのとき、被害者本人から徐家の娘だと聞いていたので、翠蝶徳妃から今回の縁談を持ち出されたとき、まさかと思った。
(本当にあの娘が、俺の妃になるとは)
賊に突き飛ばされた鳴鈴を抱きとめた時、これは可憐な少女だな、と飛龍は感じた。あと数年経てば美しい女人になるだろうと。
そう、正直、十四、五歳だろうと思っていた。翠蝶徳妃から十八と聞いた時には驚いた。育った状態で、あれかよと。