恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

(そうだ、お金を渡せば帰ってくれるかも)

とはいえ、現金の持ち合わせは少ししかない。自分が身に付けている宝飾品を差し出すしかなかろう。そんなことを考える鳴鈴の腕を、突然何者かがつかんだ。

「ああっ!」

抵抗する術もなく、馬車から引きずり降ろされる。地面に転がった鳴鈴の目に映ったのは、必死に賊と戦う護衛たちの姿だった。

「子供か……たまにはいいだろう」

舌なめずりする男の姿が月明かりに照らされる。

左右の耳の上から輪を垂らした垂桂髻(スイケイケイ)に結い、桃色の襦裙(ジュクン)を着た自分が子供と言われるのは仕方ない。そんなことを気にしている余裕もない。

(あら……?)

賊と言えば、薄汚い格好をしているものだと思っていた。しかし目の前の男が着ているのは、流行の胡服だ。持っている剣は金色で、柄には彫刻が施され、宝石が埋められている。

顔を見てやろうとしたが、目から下はしっかりと布で隠されていた。

「連れていくぞ!」

ぐいっとつかまれていた腕を引っ張られ、立たされる。ふらりとよろけると、がしりと腰に手を回され、男の肩に担がれてしまった。

「お嬢様っ!」

緑礼が駆け寄ろうとするが、周りの賊がそれを邪魔する。彼らは黒ずくめで、皆顔を隠していた。


< 3 / 249 >

この作品をシェア

pagetop