恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
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最悪の始まりだった鳴鈴の結婚生活は、その後淡々と過ぎていた。
星稜王府での生活は快適で、文句のつけようがなかった。
侍女たちは真面目で優しく礼儀正しい。毎朝きちんと鳴鈴の身支度をし、三度の食事を用意してくれる。
外に出たいと言えば、護衛さえつければ好きにすればいいと言ってくれるし(ただし、安全な星稜王領地のみ)、生活必需品で足りないものができたと言えば、その都度高級なものをそろえてくれた。
はたから見れば、鳴鈴は夫に大事にされている幸福な花嫁と言えよう。
だけど、その心はなかなか晴れなかった。
(殿下はあれから一度も、洞房を訪ねてくださらない)
王府内で顔を合わせれば挨拶はするし、皇城で催しがあれば、一緒に参加する。
でも、ただそれだけだった。
結婚して一月後にあった正月の宴で、久しぶりに会った翠蝶徳妃に対し、どんな顔をしていいのかわからなかった。
『うまくやっている? 鳴鈴。飛龍はあなたに優しいかしら』
優しいと言えば、優しい。厳しくされた覚えはない。
鳴鈴はこくりとうなずいた。すると、翠蝶徳妃は悪気のない笑顔で、とどめを刺してくる。