恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

◇◇

最悪の始まりだった鳴鈴の結婚生活は、その後淡々と過ぎていた。

星稜王府での生活は快適で、文句のつけようがなかった。

侍女たちは真面目で優しく礼儀正しい。毎朝きちんと鳴鈴の身支度をし、三度の食事を用意してくれる。

外に出たいと言えば、護衛さえつければ好きにすればいいと言ってくれるし(ただし、安全な星稜王領地のみ)、生活必需品で足りないものができたと言えば、その都度高級なものをそろえてくれた。

はたから見れば、鳴鈴は夫に大事にされている幸福な花嫁と言えよう。

だけど、その心はなかなか晴れなかった。

(殿下はあれから一度も、洞房を訪ねてくださらない)

王府内で顔を合わせれば挨拶はするし、皇城で催しがあれば、一緒に参加する。

でも、ただそれだけだった。

結婚して一月後にあった正月の宴で、久しぶりに会った翠蝶徳妃に対し、どんな顔をしていいのかわからなかった。

『うまくやっている? 鳴鈴。飛龍はあなたに優しいかしら』

優しいと言えば、優しい。厳しくされた覚えはない。

鳴鈴はこくりとうなずいた。すると、翠蝶徳妃は悪気のない笑顔で、とどめを刺してくる。

< 32 / 249 >

この作品をシェア

pagetop