恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「鬼ですか!」
それも無視し、飛龍は杯を鳴鈴の口に近づける。
「ひや~」
力が出ないながらも、両手で口元を押さえて抵抗する鳴鈴。苦い薬は子供の頃から苦手なのだ。
「ちっ、仕方ない」
飛龍は右手ひとつで鳴鈴の両手首をまとめて拘束し、膝の上に置いた。左手で杯の中身を口に含み、杯を放り投げる。
「まさか」
緑礼の声が聞こえるか聞こえないかで、鳴鈴の後頭部が飛龍の左手にがしっとつかまれる。
「えっ」
驚きでわずかに開いた唇に噛みつくように、飛龍が口づけた。
(んなあああああっ!?)
口移しで流し込まれた薬の味など、わからなかった。苦いはずなのに、甘い気さえした。
ごくりと薬を飲み下したのを確認し、飛龍はぼーっとする鳴鈴の体を褥に横たえる。
「よし、これで熱は下がる。よくなるまでおとなしく寝ていろ」
かけた布団をぽんぽんと叩き、彼は緑礼を見る。
「ところで、側仕えを臥所に入れるのは感心しない。変な噂を立てられるぞ。愛し合っているのはけっこうだが、周りにばれないようにしろ」
「はい?」