恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
何も考えられない鳴鈴の代わりに、緑礼が飛龍を睨み返して反論する。
「私が、お妃さまの愛妾だとでも言うのですか?」
「違うのか」
「……私、女なんですけど」
「なに?」
緑礼の告白に、飛龍は目を丸くする。
「お妃さま、言ってなかったんですか?」
「え、え、だって……男の人を王宮に連れてくるわけ、ないでしょ。女子が胡服で、男装するのも流行っているし。殿下は、わかっているものと思って……」
切れ切れの説明を聞き、脱力する飛龍。
「知らなかった」
「殿下、女のことはまるでわからないのですね。侍女たちはみんな知っていますよ」
呆れたように言う緑礼。
「それならいい。どれだけでも、そばにいてやってくれ。では」
恥ずかしさを隠すように、すぐに背中を向けていなくなろうとする飛龍。鳴鈴はその袖を、思わずつかんでしまった。
「もう、行ってしまわれるのですか……?」
袖をつかまれた飛龍が振り向く。彼は苦々しい顔をしていた。
「俺は忙しいんだ」
鳴鈴にもわかっている。飛龍だって色々やることがある。あちこちの雪かきに農民を動員し、働いた分の給金を出していることも知っている。それが、仕事がない時期の農民を救う手立てだということも。