恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
飛龍は馬で、鳴鈴は馬車で、二十人ほどの家臣に囲まれて行くこと一刻ほど。
(やっと着いたの? それにしても、寒い……)
かたかたと震える鳴鈴に、飛龍が手を差し伸べる。
「わあ……」
足元を見ると、そこは一面雪に覆われていた。
滑らないように注意して馬車から降り、周囲を見回した鳴鈴は嘆息を漏らした。
「まあ!」
開けた雪原の周りを、木々が囲んでいる。空に向かって両手を広げるように伸びた枝の先まで、びっしりと霜氷に覆われている。
それはまるで咲き誇る満開の桜のよう。わずかに届く日の光を反射し、眩しく輝く雪桜。それは星稜の冬の厳しさと、優しさを同時に感じさせた。
(まるで、殿下みたい……)
白い息を吐きながら木々を見上げる鳴鈴は、寒さも忘れていた。
「素晴らしいです。こんなに美しいもの、初めて!」
純白に覆われた世界ではしゃぐ鳴鈴を見て、飛龍は頬を緩めた。
「気に入ってくれたか」
「もちろんです」
この景色の美しさは、どんな高級な絵具でも再現することは不可能だろう。