恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
生まれて初めてそりを見た鳴鈴は、内心うずうずしていた。興味が湧いたことは試してみないと気がおさまらない性質なのである。
眺望台は遊ぶためのものじゃないけど、そりは遊ぶためのものなので遠慮はしない。
「バカを言うな」
子供たちの隣で飛龍まで目を吊り上げる。
「お前は俺の妃だ。怪我をさせるわけにはいかない」
「怪我をすると決まってはいません」
「だって、見るからにどんくさそうじゃないか」
遠慮のない物言いに、鳴鈴は思い切り頬を膨らませた。
「じゃあ、飛龍さまが舵をとってくださる?」
「これに二人も乗れるか。尻がはまって抜けなくなるわ」
緑礼がぷっと吹き出した。子供の親である兵士が手作りしたのだろう、木製のそりはたしかに小さい。
「じゃあ、私だけ」
周りの制止も聞かず、持ち主である子供の許可もなく、鳴鈴はすっとそりに乗り込んだ。
「あ、おい、めいり……」
肩をつかもうとした飛龍の腕を、鳴鈴は華麗にすり抜けていった。急に前に体重をかけてしまったせいで、子供が適当に置いた丘の斜面から、勢いよくそりは滑りだした。