恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「撃て!」
その号令で、騎馬隊の後ろにいた弩隊が息を合わせ、一斉に引き絞った弦を離した。
矢が音を立てて弧を描き、門の向こうの敵軍へ降り注ぐ。
流星群のような矢は、古斑軍の甲冑を貫き、馬の足を傷つける。嘶きが辺りに響き渡った。
(これで互角だ)
雪でぬかるんだ足元で、歩兵は満足に動けない。騎馬戦ではもともと遊牧民族であり馬に慣れている敵軍の方が上手だ。卑怯だろうが、不利な状況で正々堂々と戦う気はない。それは単に無謀というものだ。
不意に飛龍の横で爆発音がした。敵の歩兵が放った矢の先につけられた火薬が爆発したのだ。
「怯むな! 追い払え!」
狭い門の口にわっと集まった古斑軍を、星稜王軍は自らの領地に招き入れる。身動きがとりづらい敵を、門の側面から弓矢が襲う。
それでも無事だった者は、剣を振りかざして敵軍に突入してくる。そこからは騎馬隊、歩兵入り乱れての乱闘になった。
馬上から戟を振り回し、襲いかかってくる敵を次々になぎ払う飛龍。前方に敵が立ち塞がれば、愛馬が主人のために足を上げ、鋭い蹄で敵兵らを蹴り飛ばした。