恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
侍女たちは「本当に任せて大丈夫なのだろうか」という疑惑の眼差しを向けてきたが、立場的に鳴鈴に逆らうことはできない。
「では、なにかありましたらお呼びください」
諦めたように、侍女たちはその場を去っていった。鳴鈴は動きやすい胡服で意気揚々と飛龍の私室に向かう。
「お妃さま、くれぐれも高価なものを壊したりしないでくださいよ。侍女たちが罰を受けるようなことになったら可哀想ですから」
そこらじゅうのホコリをはたきまくる鳴鈴に、緑礼が言う。
主不在だった部屋は、ホコリが溜まっていた。私室と執政室にいつでも入ることが許された鳴鈴が鍵を持ち、換気をしていたのだが、掃除は侍女たちに止められていた。
飛龍の私室には皇帝や兄弟皇子から贈られたという外国製の高価な壺や、掛け軸、貴重な書物や硯箱……などなどがあるので、おっちょこちょいな妃に破損されてはいけないと思ったのだろう。
「あら、殿下はお優しい方よ。私が何か壊したからって、侍女たちにとばっちりがいくようなことはないわ」
「そうでなくて……とにかく何も壊さないように気を付けてください」
「はーい」
無事にホコリを払い、床を拭いたあと、鳴鈴が手をつけようとしたのは牀榻だった。