恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「ここもしっかり綺麗にしておかなきゃ」
「私は布団を用意してきます」
「お願いね」
緑礼が行ってひとりになった鳴鈴が牀榻の下に箒を入れると、柄がゴツっと何かに当たる音がした。
「あら?」
牀榻の下に何かがしまってあったのか。高価なものだったらまずいと思い、鳴鈴は屈んで牀榻の下を覗き込む。
そこには金色の美しい模様が描かれた箱が置かれていた。鳴鈴は手を伸ばし、それを引きずり出す。
「ああ良かった。傷ついてはいないわね」
漆塗りの箱は、一目で高価なものだとわかる。鳴鈴は中身が破損していないか確かめるため、床にうずくまり、何の悪気もなく蓋を開いた。
(……なに、これ)
中身を見て、鳴鈴は声を失った。箱の中、綿と絹の上に乗っていたのは、明らかに女物の華美な耳飾りだったのだ。
金と大ぶりな翡翠でできた耳飾りは、片方しかなかった。そして、せっかくの金が黒ずみ、翡翠は曇ってしまっている。長い間手入れがされていないように見えた。
(どうしてこんなものが、殿下のお部屋に?)
大事そうに、そして他者から隠すようにしまいこんであったそれに、鳴鈴の胸の奥がざわざわと揺さぶられる。