恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
伍・美男と餅
ぼんやりと目を開け、数度まばたきする。
(ここはどこだったっけ……)
鳴鈴は靄がかかったような頭で、直前の記憶を思い出そうとする。
皇太子妃と顔を合わせるのが嫌で、宴が終わるまで隠れていようと庭の端まで歩いていたら、溜池が見えた。
別に何か目的があったわけじゃない。池の中に亀でもいるかしら、と軽い気持ちで近づいた。
池の中は緑色で汚かった。水中には藻しか見えず、がっかりしながらも、少し安心した。
こんなところに誰かが来るわけない。ひとりでぼんやりするいい場所を見つけた。
そう思った鳴鈴は、池のほとりでぼんやりしていた。
やがて、自分を呼ぶ声が聞こえて驚いた。その声は、飛龍のものだったから。
パッと顔を上げて飛龍の方を見る。彼はなぜか、切羽詰まったような顔をしていた。
そのときだ。後ろから、何かに突かれた。
硬い物が、帯に入れていた鏡に当たって跳ね返った。しかし体当たりするような衝撃に、鳴鈴はよろけた。そして──。
思わず自分の喉を押さえる。
(あのとき、すぐに息が苦しくなって、気が遠くなってしまって……)