あなたで溢れている
俺はどうにか声を絞る。
「……帰る」
八つ当たりはしてないだろうか?
ちゃんと普通に言えただろうか?
「…え、あ、うん」
やっぱり普段通りには言えなかったらしい。
英里奈がキョトンとしていた。
そんな英里奈を抱き寄せる。
勿論ドキドキは隠したまま…
ハグして、おでこにチュッと小さくキスを落とす。
口にしていいのは恋人同士だと母親に殴られてから…デコチューは俺の譲歩。
英里奈に『好きだ』と言えない俺の気持ちを乗せての、おやすみの挨拶。
「…気をつけて」
アパートの扉を開けて徒歩5歩。
俺の部屋は隣なんだけど、英里奈は帰り際にいつも言ってくれる。