朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「それは俺が訊きたい。華取が在義さんの娘とは知っていたが……」
 

ほら、こういうところが信じられない、と思ってしまう。


『神宮先生』がこんな粗雑な言葉は遣ったところなんて知らない。


いつも少し困ったような笑顔をしていて、はっきり言って弱そうな印象しかなかった。


それが在義父さんのことを、『在義さん』と呼ぶ仲って一体どういうことなんだろう?


「うん、私の父は在義父さんですね。なんで先生が在義父さんのこと知ってるんです?」


「………マジか」
 

神宮先生は片手で顔を覆って大きく息を吐いた。
 

私は脳内シミュレーションをしてみた。


その動作を神宮先生がすると思うと……駄目だ、想像すら出来ない。


それだけ神宮先生は穏やかな先生という認識が強かった。


はたまたそれは私だけの誤認だったのだろうか?


「――華取。少し確認してもいいか?」


「なんでしょうか。……なんでそんなに近いんですか?」
 

囁くほど顔を近づけて来た神宮先生に、疑問を抱く。


神宮先生はそれを察してか、指で隣の部屋を指した。


そして更に顔を近づけ、耳元にこそっと囁いた。


「隣に、愛子」
 

いるのか。

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