朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】
side咲桜⑩
「それじゃ。また明日」
「はっ、はい。また」
玄関で先生の背を見送るのは妙な心地だった。
また先生がここに帰って来そうな気がするからだろうか。
自分の頭に手を置いてみる。
一昨日も、あの大きな手は頭に乗った。
私は小さい頃から背が高い方なので、あまり頭を撫でられる経験はない。
嬉しい。……じんわり、あったかさがただよってくる。
「………」
どうしてあんな言葉をくれるんだろう。どうしてあんなに優しいんだろう。
「……やっぱりいい先生だ」
教師は続ける気はないみたいに言っていたけど、私は十分適職だと思う。
もったいないなあ。
「………」
ねえ先生。ご飯、ちゃんと食べてくれてますか? どんなものがすきですか?
明日、訊いてみようかな。
だって、明日がもう楽しみなんだ。
……言葉一つで、逢える約束をしてしまったからかな。